諫早湾のほとりにて

野乃あざみ・作

―20-

八(2)

「もう食べごろや。どんどん食べんしゃい」
 生まれて初めて焼き牡蠣を見る大輔は、素手で取ろうとして、アチ、アチ、と慌てている。田所は笑いながら、軍手をはめた手で、紙皿とトングを、大輔に渡してやった。
 木村先生は、紙皿の上の牡蠣をつつきながら、私に話しかけてきた。
「今日はごめんね、遅うなってしもうて。実はね、引っ越し前に粗大ゴミば運んでもらうとに、業者ば待っとったとよ。そしたら予定より遅うなって、コイツの現れたと。まあ、奇遇やねえ、あんたも分校の跡地ば見に来んねって言うて、引っ張って来たとさ。最初は嫌がりよったけどね」
「いえいえ、おかげでご馳走になって。それに、卒業生に会えてよかったです」
 それからひとしきり、分校の思い出話が続いた。「何でも屋」のおばさんから、「万引き」の疑いをかけられて抗議したこと、授業をサボって神社の境内でタバコを喫うヤツもいたことなど、今となっては、懐かしさを覚える話の連続だ。
「あのう、ちよっと聞いてもいいですか」と、いきなり大輔が口を開いた。何かと思えば、
「田所さんは、潜水服を着る時もリーゼントだったんですか」という質問だった。田所は大笑いした。
「そげんこと、できる訳なかろ?親父に殺さるっ!そいでのうても、日頃から『命がけの仕事ぞ。身ば浄めて、心ば引き締めてかかれ』って言われよったとに」
「それじやあ、学校に行く時は、どうしてリーゼントにしよったんですか」
「まあ、付き合いっていうか、仲間と同じにせんば居心地の悪かったていうか。今思えば、アホみたいやったけどな」田所の言葉に、木村先生も同調する。
「私には、あの頃のあんたたちの気持ちも、分かるような気のするとよ。中学のころから、『バカ』って言われ、勉強が好きでもなかとに『高校だけは出とけ』って言われて、来させられよったとやもんね」
私も、思い出すことがあった。
「私が初めて来た時に、校舎で『話し合い』ばしよった、ツッパリ女子のリーダーは、卒業式に出ようとしたら、服装違反で入れてもらえんで、大泣きしたとやったですね」