諫早湾のほとりにて

野乃あざみ・作

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三(2)

 目的地の「轟の滝」は、高さ十メートルくらいの高さから豪快に落ちる水音が、その名の由来だった。森林の中で豪快に流れる姿が、人を惹きつける。小石の並ぶ川原を歩いて、滝のすぐ傍まで近づくことができる。キャンプ場も整備され、県内でも有数の行楽地だつた。    
 もうすぐ到着というところで、「通行禁止」の看板が現れた。一体どうしたことかと、途方に暮れる私の横で、大輔がスマホを取り出し、検索を始めた。
「なあんだ、この場所は入場禁止だってさ。『一昨年の上砂崩れにより、道路周辺の地盤補強工事が行われています』つて書いてある」
 あいにくの事態にがつかりした私と対照的に、大輔の方は淡々としていた。車から降りて両腕を広げ、深呼吸をしている。 一時間以上も車を運転していたからだろう。
 ただ、私の方は、かえすがえすも、残念だつた。川原で過ごした日の思い出が蘇る。木立の間をしばらく進むと、渓流を横切る石橋があった。高さ五メートルぐらいで、男子生徒が度胸試しで飛び込むスポツトだ。教師の目を盗んでは挑戦するので、気が気ではなかつた。しかし、幸いなことに、誰もケガはしなかつた。宿泊キャンプもした。川辺で焚火を囲み、生徒会主催の「肝試し」大会を楽しんだ。
 生徒だけではない。職員も、休日に川原で懇親会を開いた。バーベキューは和気あいあいとして楽しかつた。若手教師のグループで鮎を捕らえ、アパートで焼いて食べたりもした。いつか、また訪れたい場所ではある。道路の補修工事によつて、環境が破壊されないことを祈るのみだ。
「そう言えば、ここの学校の話は、聞いたことなかったなあ。どげん学校やったと?」
「そうやねえ。四十年前て言えば、あんたの生まれるよりずっと前やもんね。初めてこの学校に来た時は、びっくりしたとよ。校舎が全部木造やったけんね」
「でも、昭和の学校やったら、フツー、そげんもんやない?」        
「冗談言いなさんな!昭和って一括りにせんでよ。私がここに来た一九八〇年代は、経済成長の真っ只中。高校の校舎はコンクリートが常識だったんやから。木造校舎の高校なんか、他にはなかったんやないかな」