諫早湾のほとりにて

野乃あざみ・作

―27-

 もう、日は、だいぶ西に傾いていた。大輔は黙ってハンドルを握つている。
「ごめんね、こげん遅うなって」と声をかけると、 振り向きもせず、彼はこう言った。
「いや、意外と面白かったよ。年寄りの思い出巡りってバカにしとったけど、あの漁師さんの話は、 何かよかった。何か、よかったよ」語彙の乏しい息子が反復するとは、よほど強い思いがあるのだろう。

(終)