野乃あざみ・作
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九(4)
彼の表情は自信にあふれ、人が変わったように雄弁になった。
「オレたちは、自分の権利についても、勉強したと。『漁業権は、漁協のものじゃなくて、漁民個人に属する』つてさ。何年か前、佐賀や熊本の連中と海上デモばした時、肝心の所で抑え込まれた。今までは、上の人間の言うことは聞かんばって思いよったけど、『自分たちの権利は、自分たちで守る』つて、考えの変わったとさ。それから、同じ考えの人間の集まって、訴訟ばすることになったとさ」
「それで、どうなったと?」と私が言うと、
「裁判ていうとは、難しかね。勝てるって思うても、なかなかうまくいかん。最近も、最高裁から『話し合いによって、解決するように』って言われたけど、平行線で、なかなか進まん。そいでもオレたちは、昔より賢うなった。今は、あの排水門の一部ば開けて、少しずつ水の出入りばさせてくれって、そう言いよるとさ。だいぶ前に、一ヶ月だけ部分的に開けたら、タイラギも魚も、戻って来たっていうやないか。一部だけの入れ替えでも ずっと続ければ、もっと効果の上がるとは間違いなか。潮ば入れる方法も、慎重にやれば、水害や塩害も起らんごと、できるはずたい。農家にも迷惑はかからん。推進派も反対派も、ウィンウィンの関係になるさ。問題は、『思い込み』に疑り固まったヤツらに、どうやって聴く耳ば持たせるか、っていうことさね」 ´
「気の長か話やね。一人一人、説得して回るってか?その間にあんたの潜水具も、骨董品になるんやなかね?」木村先生は、あくまで現実主義者だ。
「そいでんよか。将来、もっとよか道具の出るかもしれん。息子たちも、後継ぎはせんて言うかもしれん。それでも、オレの道具は、残して置くさ。『分校』の記念碑よりか、オレにとっては大切かもんやけんね。」彼の口調は、きっぱりとしていた。