諫早湾のほとりにて

野乃あざみ・作

―21-

八(3)

「そうそう。あの年までは、『本校』での合同開催やったけんね。何せ『本校』は県内一の進学校で、規則も厳しかったけん、私らではどうにもならんやった。今の成人式と同じで、『晴れ』の格好ばしたかっただけやろうけどね」
 彼らにしてみれば、世間から爪はじきにされた反動で、ツッパリを演じていたのかもしれないと、私も思う。
「でもまあ、でたらめする人間もおったけど、真面目な子の方が多かったとよね。特に女子はね。あんころは、女の子に学費はもったいなかっていう親も多かって、街の学校には行かせてくれんやったもんね」
 それは本当だ。そんな悪条件をものともせず、公立の女子大に合格した子も、実際にいたのだから。
 懐かしい話が続く一方、私には、言わなければならないことが残っていた。
「先生、時々思うんです。私は、本当に生徒の役に立っていたのかって。溝内っていう子も、一年で退学させたけど、もっと何かしてやれたんじやないかって、悔いの残るとです」
「ああ、あん子やろ?」やはり、木村先生の記憶にも残っていた。
「中途半端なヤツやった。何かやらかすたんびに、呼んで言い聞かせたけど、言い訳ばかりで聞く耳持たん。同じ事の繰り返しで、とうとう授業妨害までするごとなった。一番の迷惑行為たい。私も、さすがに弁護する気にはなれんかった」
「そいでも、私の力が足りなかったのでしよう。もっときちんと指導すればよかったって、今でも思うとですよ」
「いや、あんたは、するだけのことはしたさ。あの後、食品工場のアルバイトば探してきて紹介したやろ? アイツはそこも、すぐ辞めてしもうたらしかけどね」
 そうだった。私自身が忘れていたことを他人に指摘されるのは、妙な気分だ。それにしても、あの子はどうしているのか? 今もあの辺りに住んでいるのか、成人してしっかりやっていてくれればいいのだが‥‥・。
 話している間にも、田所は次々と牡蠣を補充する。ふっくらと焼けたその身は、ツルリと一口で入ってしまう。「別腹」と言うのは本当だった。