野乃あざみ・作
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五(1)
下界に下りて飲食店を探すのは、予想以上に難しかった。たまたま火曜日だつたのが不運だった。この地区の店は火曜日定休が多かったのだ。店の数が少ないこともあり、これは難航すると思った時、大輔がこう言った。
「国道から入る角に食堂のあったよね?開いてたんじゃないかな? 『ちゃんぽん』って、でっかい看板のある店」
「ああ、『かわづや』ね。あそこは昔からある店やけど、あんまり‥‥」そう言うと、
「何ば言いよっとね。選り好みしとる場合じゃないやろ」確かにそうだ。仕方なく、息子の意見に従うことにした。 ・
中に入ると、大賑わいだった。ちょうど昼休みの時間帯なのだ。会社の制服や作業服など、様々な格好をした人間たちが、テーブルを囲んでいた。休業の店が多いので、よけいに混雑しているのかもしれない。
息子の手招きで近づいてきた従業員が、
「今日は、もう定食は終わりです。あとはちゃんぽんくらいしか作れません」と言った。
それで、ちゃんぽんを二つ注文することになつた。
ここは、分校の職員には馴染みの店だった。毎日のように出前を取る者もいたが、弁当派だった私は、利用したことがない。実は一度機会があったのだが、その時は、食べる訳にもいかなかった。それは、思い出したくない苦い経験だった。
そんな私の思いをよそに、大輔は、やっと食事にありつけとはしゃいでいる。運ばれてきたちゃんぽんは器にたっぷりと盛られ、湯気を立てている。
「うん、味はまあまあやね。麺が短く切ってあるけど、この方が食べやすか。何だこれ? 殻付きの海老が入っとる。ちょつとジャリジャリするけど、ま、悪くなか」そう言いながら、なかなか箸の進まない私を、チラリと見る。
「何ね、その顔? どうかした?」息子の怪訪な顔を見ると、話さずにはいられなくなった。
「ちょっと、昔のことば思い出しとった。あのころ担任しとったクラスに、溝内っていう子のおったけど、その子ば、退学させた時のこと」
「へええ、退学って、あんまし聞いたことなかなあ。不登校で、いつの間にか消えるヤツは、たまにおるけどね。その子、一体、何ばしたと?」