
著者 野崎眞公(長崎高教組元副委員長)
いつか来た道 歴史に学ぶ
評者 南邦和(日本ペンクラブ会員)
本書は、約10年前(2013年7月)に麻生太郎副総理兼財務大臣が、あるシンポジュームの中で発言(口をスベラシタ)したとされるナチスの「あの手口を学んだらどうかね…」というヒトラー容認ともとれる妄言を、コトナカレ主義で傍観しているマスコミはじめ多くの日本国民への失望感からの、問題提起のための著者畢生の労作である。
若い戦後世代にとっては、すでに知識の空白となっている〝第二次世界大戦〟であるが、とりわけ、狂信的な戦争指導者であったヒトラーと彼を盟主とする「ナチズム」という狂気の思想集団が生み出した「ホロコースト」に象徴されるユダヤ人へのジュノサイドという近現代史の恥部を抉る告発の書となっている。
アドルフ・ヒトラー(1889~1945)が政権を掌握したその時代(1933)に生を享けた私にとっては、同時代の現代史をリアルに復習する待望の一冊でもある。300頁を越す本文と併せて、巻末にはヒトラーとナチスドイツに関する詳細な歴史年表が付されており、表紙裏には著者の手描きによる世界地図と〈大日本帝國〉時代の版図を示す書き込み、さらに裏表紙には、日中戦争・大東亜戦争(当時の呼称)の舞台となった、中国大陸における日本軍の展開図と〈三光作戦〉などの事例が書き加えられている。
まず冒頭に「ヒトラーとは?ナチスとは?」の主題が、ヒトラーの年代記とその雄弁な〝演説〟、ナチスの党勢拡大の過程がわかりやすく説明され、第2章以下、第一次世界大戦(欧州大戦)から第二次世界大戦へと至る「戦争の世紀」におけるドイツと日本(当時は〝三国同盟〟による同盟国)の国内、国際情勢が記述されている。
特に、第6章「『八紘一宇』のスローガンと/小林多喜二の拷問死」は〈八紘一宇の塔を考える会〉の会長経験者である著者の豊かな学識・経験をもとにした、ややジャーナリスティックな展開となっており、「治安維持法」に基く学問・思想の弾圧、特高警察を手先とする小林多喜二虐殺に代表される〝国家犯罪〟への手厳しい糾弾が見られる。
本書には、各章ごとに本文を補強する注釈が付され、時代や人物を解説している。その点では単なる読みものではなく近現代史のディテール(細部)を示す〝学術書〟でもある。私なりに特に興味を抱いたのは、1933年(昭8)に起こった京都大学滝川幸辰教授の罷免に際しての、鳩山一郎文部大臣の記者会見(5月19日車中で)での発言である。「刑法読本の発禁、僕がさせたのだ…時勢だよ…時勢の力だよ。止むを得ぬ」。
時代はやがて第二次世界大戦へと突入し、〝独ソ戦〟におけるドイツ軍の敗退、ヒトラー政権の崩壊とヒトラーの自決。そして太平洋戦争における日本軍の敗北、「ポツダム宣言」の受諾と、一気に戦争終結へと歴史は動いていった。本書中、繰り返し引用されている「麻生妄言」への厳しい指摘は、現在(2024)なお政権中枢にとどまる(つい最近は「もしトラ」の思惑から緊急渡米、前トランプ大統領にシッポを振ってきている)麻生太郎というコリナイ政治家(政治屋)への痛烈な批判であり、〝裏金問題〟に見る自民党という腐敗政党への痛打でもある。